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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)24号 判決 1990年7月31日

原告 株式会社ニュウボーン本社

右代表者代表取締役 新美敢

右訴訟代理人弁護士 郷成文

同 成瀬欽哉

被告 有限会社味地雷也

右代表者代表取締役 瀬川静子

被告 菅川尚子

右両名訴訟代理人弁護士 柴田義朗

同 寺澤弘

同 木下芳宣

同 加藤洋一

主文

一  被告有限会社味地雷也は、原告に対し別紙店舗目録一及び二記載の各店舗を明け渡せ。

二  被告らは、原告に対し、連帯して昭和六三年一〇月二六日から別紙店舗目録一記載の店舗の明渡し済みまで一か月金三二四万円の割合による金員及び昭和六三年一〇月二六日から別紙店舗目録二記載の店舗の明渡し済みまで一か月金一七六万円の割合による金員を各支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文一項同旨

2  被告らは、原告に対し、連帯して昭和六三年一〇月二六日から別紙店舗目録一、二記載の各店舗明渡し済みまで一か月金七〇〇万円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、訴外栄地下センター株式会社(以下「栄地下センター」という。)より別紙店舗目録一記載の店舗(以下「第一店舗」という。)を、訴外三浦恒明(以下「三浦」という。)より別紙店舗目録二記載の店舗(以下「第二店舗」という。また、第一店舗と第二店舗を併せて「本件各店舗」という。)を各賃借している。

2  原告は、被告会社に対し、本件各店舗における天むすびの販売業務を委託していた(本件委託契約)。

本件委託契約は、当初被告会社代表取締役瀬川静子(以下「瀬川」という。)個人と原告との間において締結されたものであるが、その後、被告会社に承継されたものである。

3  瀬川の実妹である被告菅川尚子(以下「被告菅川」という。)は、原告に対し、本件委託契約から生じる受託者の債務を保証することを約した。

4  本件委託契約の内容は、大要次のとおりである。

(一) 受託者は、委託者の営業方針に従い、その指導監督の下に誠実に業務を手伝い、委託者の営業向上に貢献するものとする。

(二) 受託者が委託者の指示により本件各店舗内へ搬入した商品は、委託者が自己の商品と同一の注意をもって管理するものとし、顧客に売り渡された時、受託者から委託者に売り渡させたものとする。

(三) 本件各店舗内の委託販売のための什器は、受託者の希望により委託者が設置し、受託者は、機能的な設置がなされたことを確認した。

(四) 委託者は、全ての売上代金を委託者の売上代金として管理する。

(五) 委託者は、受託者に対し、報酬費用及び品代金として売上代金の八五パーセントを支払うが、その決済は委託者の支払い規定による。

(六) 受託者は、委託者に対し、本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額を協力金として支払う。

(七) 委託者は、六か月前に受託者に通知して本件委託契約を解除することができる。

(八) 契約の解除または終了の時は、受託者は委託者の指示に従い受託者所有の物品を搬出し、その他委託者の営業の妨げとならないよう措置しなければならない。

5  原告は、本件委託契約に基づき、多額の出費をもって本件各店舗を確保し、什器備品を備え付け、被告会社に天むすびの販売を委託してきた。また、被告会社も本件委託契約に基づき、天むすびの委託販売業務を行い、原告に対し、毎日売上日報及びレジペーパー等売上関係資料を添付して全売上金を入金し、その後、売上金の八五パーセントから協力金を控除した金員を原告から受領してきた。

このように、原告と被告会社との間の天むすびの販売委託関係は、二年余の間継続してきた。この間、被告会社代表取締役瀬川は、原告事務室の中に事務机を置き、原告の監督の下に被告会社の事務を統括し、被告菅川が天むすびの仕入・販売の実務を掌握していた。

6  (背信行為を理由とする解除)

(一) 被告会社は、昭和六二年になってから、本件各店舗の売上金の入金を度々遅滞するようになり、また、使途不明金が発生したりして経理上の問題が生じた上、経営面においても資金面を無視した天むすびの放漫な仕入・販売等その業務内容が正常さを欠くようになった。そこで、原告代表取締役新美敢(以下「新美」という。)が被告会社代表取締役瀬川と被告菅川に対し、注意したところ、瀬川と被告菅川は、昭和六二年七月二九日、突然、新美に何の挨拶もなく、長年執務していた原告事務室から退去し、その際、原告専用の書類保管庫から原告賃借にかかる第二店舗の賃料・光熱費の請求書類及び同振込書類綴等賃貸借関係書類を無断で持ち去った。その後、原告は、被告会社に対し、右書類の返還を求めたが、被告会社はこれを拒絶した。

(二) 原告は、本件委託契約を前記4(七)の予告解約条項に従って解約するべく、被告会社に対し、昭和六二年九月二二日付内容証明郵便により六か月の予告期間をおいて解約する旨の通知をした。

しかるところ、被告会社は、原告に対し、昭和六二年九月二二日付回答書において、前記4の契約条項と長年にわたる右条項どおりの運用実績を無視して、被告会社と原告との法律関係が「売上金額の一五パーセント及び本件各店舗の賃料を転貸賃料とする転貸借契約である。」と強弁し、昭和六三年三月末における本件各店舗の明渡を拒絶した。 本件各店舗の賃貸借契約には厳重な転貸借禁止条項が存在し、被告会社代表取締役瀬川も、被告菅川も、これを知悉しているのであるから、右回答は、単に本件各店舗に居座るための口実にすぎない。

また、被告会社の右のような主張そのものが原告の財産である本件各店舗の賃借権を危殆に瀕せしめるものであり、重大な背信行為である。

(三) 被告会社及び被告菅川は、原告事務室から無断退去するに際して、被告会社の本店所在地を一旦被告菅川の住所地である名古屋市瑞穂区松月町四丁目一三番地の三に変更しながら、「転貸借」を装うために、さらに第一店舗の所在地に変更するに至った。しかも、右各変更は、被告会社の五〇パーセントの出資者である原告代表取締役新美に何等相談することなく、定款の変更のための社員総会も開催せず、社員総会議事録を捏造しかつ新美の署名・押印も偽造して届出をなしたものである。

ちなみに、被告会社は、本件委託契約の中の「当該業務が過大に発展すると判断したときは、本契約店舗も含め委託者・受託者折半による会社法人を設立し本契約における受託者(瀬川)の業務を継続発展努力するものとする。」旨の明文の特約に基づき法人化されたものであり、新美が実質的には一〇〇パーセントの出資をなして設立したものであり、この点をみても、被告会社の背信性は重大であるといわざるをえない。

(四) 被告会社は、昭和六二年一〇月七日以降、第一店舗の売上金額を入金しなくなり、更に同月九日以降、第二店舗の売上金額も入金しなくなった。そして、何の資料も添付せずに売上金の一五パーセントと称する金員のみを入金するだけとなった。また、協力金の支払も拒絶するに至った。

(五) 以上のように、被告会社は、本件委託契約によって定められた原告の指揮監督を無視し、原告による監督を回避するため原告事務室から移転し、原告に対し、何らの営業報告も行わなくなり、原告に対し、売上金全額を入金せずに売上金の一五パーセントと称する金員のみを支払う等、原告との間の信頼関係を著しく破壊する債務不履行を重ねたので、原告は、これを理由として被告会社に対し、昭和六三年一月一四日到達の本訴状により本件委託契約解除の意思表示をした。

7  (売上金不払いを理由とする解除)

被告会社は、その後、原告に対し、売上金の一五パーセントと称する金員すら、第一店舗については昭和六三年二月二六日以降、第二店舗については同年三月八日以降、いずれも支払を停止し、供託もしないため、原告は、被告会社に対し、平成二年一月三一日の本件口頭弁論期日において、本件委託契約解除の意思表示をした。

8  損害

第一店舗は、栄地下街の中でも絶好の位置に存在し、また、第二店舗は、東京の中心街に位置し、原告が本件各店舗を自ら使用する時は莫大な利益を得ることが可能であるところ、被告らの明渡拒絶によって本件各店舗における自己の営業を全面的に妨害され、得べかりし営業利益の損害を受けている。

被告会社は、原告から売上金額の八五パーセント相当額より協力金を差し引いた金員を受託料として受領することにより、多額の利益を受けてきた。

従って、原告が本件各店舗において直営した場合には、受託料以上の収益を得ることは確実であり、また、被告会社に対するのと同一条件で他に委託することも可能であり、原告の受けている損害は、売上金額の一五パーセント相当額と協力金の合計額を下回るものではない。

ところで、右損害額算定の基礎となる一か月当たりの売上額及び協力金の額は、本件委託契約解除前一年間の売上額の平均売上月額として算定するのが相当であるところ、被告会社は、原告に対し、何の資料も添付していないとはいえ、昭和六三年二月二五日(二月分)までについては本件各店舗における売上金額の一五パーセントと称する金員を支払っているので、右同日以前一年分の平均売上額及び協力金の額を基礎として損害を算定すると、原告の損害は、一か月当たり七〇〇万円を下らない。

9  よって、原告は、被告会社に対し、本件委託契約の終了に基づき、本件各店舗の明渡し及び本件委託契約が終了した後である昭和六三年一〇月二六日から明渡し済みまで一か月七〇〇万円の割合による金員の支払いを求め、被告菅川に対し、連帯保証契約に基づき右期間、右同額の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3のうち、被告菅川が瀬川の実妹であることは認め、その余は否認する。

4  同4の事実は否認する。

5  同5の事実のうち、被告会社が昭和六二年一〇月上旬までに限り、原告に対し、毎日売上日報及びレジペーパー等売上関係書類を添付して全売上金を原告指定の銀行口座に入金し、その後売上金の八五パーセントから賃料・共益費等相当額を控除した金員を原告から受領してきたこと、昭和六二年七月二八日まで瀬川が原告事務室に事務机を置き、被告会社の事務を統括していたこと、被告菅川が本件各店舗において天むすびの仕入・販売の業務を行っていたことは認め、その余は否認する。

6(一)  同6(一)の事実のうち、瀬川と被告菅川が、昭和六二年七月二九日、原告事務室から退去したことは認め、その余は否認する。

(二)  同6(二)の事実のうち、原告が被告会社に対し、昭和六二年九月二二日付内容証明郵便により六か月の予告期間をおいて原告と被告会社との間の契約を解除する旨の通知をしたこと、被告会社は、原告に対し、昭和六二年九月二二日付回答書において、被告会社と原告との法律関係が「売上金額の一五パーセント及び本件各店舗の賃料を転貸賃料とする転貸借契約である。」と主張したこと、昭和六三年三月末における本件各店舗の明渡しを拒絶したこと、本件各店舗の賃貸借契約には転貸借禁止条項が存在し、被告会社代表取締役瀬川も、被告菅川も、これを知悉していたことは認め、その余は否認する。

(三)  同6(三)の事実のうち、被告会社が被告会社の本店所在地を名古屋市瑞穂区松月町四丁目一三番地の三に変更したこと、その後第一店舗の所在地に変更したことは認め、その余は否認する。

(四)  同6(四)の事実のうち、被告会社が、原告に対し、売上金の一五パーセントを入金したことは認め、その余は否認する。

(五)  同6(五)の事実は否認する。

7  同7の事実のうち、被告会社が、原告に対し、第一店舗については昭和六三年二月二六日以降、第二店舗については同年三月八日以降、売上金を全く入金しなくなったことは認め、その余は否認する。

8  同8は争う。

三  被告らの主張

1  原告・被告会社間の本件各店舗使用に関する契約は転貸借契約でありかつ借家法の適用を受ける建物の賃貸借契約である。

即ち、

(一) 被告菅川は、昭和五九年頃から独自に「天むす」について研究を続けていたものである。

ところで、被告菅川は、その友人が原告の従業員であったことから新美を知るようになり、その関係で被告菅川の姉である瀬川が昭和五九年夏頃から原告において事務員として働くようになった。

原告は、第一店舗において和食「竜むら」を営んでいたが、被告菅川は、新美から第一店舗が地下鉄東山線への階段の脇にあるというわかりにくい位置にあることから、いかに営業努力をしても「竜むら」は常に赤字である旨聞いていた。そこで、被告菅川は、昭和五九年一〇月頃、新美に対し、被告菅川に第一店舗を転貸して「天むす」の販売をやらせて欲しい旨申し入れたところ、新美はこれを承諾した。

かかる経緯で、原告は、第一店舗を被告菅川の指示通りに改装した上で被告菅川に対し、転貸した。

(二) 被告菅川は、原告の費用負担で被告菅川の設計にかかる「天むす」店舗用に第一店舗を改装させ、被告菅川の費用負担でその後の改装の手直し、什器備品の購入、営業の準備、資材購入、従業員の早期採用教育訓練等「天むす」の店の経営にかかる運転資金も用意して、昭和六〇年三月二七日、商号を「地雷也」として「天むす」の店を開店した。

(三) 新美は、「地雷也」開店の数日後、被告菅川に対し、「地下街は転貸借禁止の制約があってうるさいので、今後のことを考えて書類を作っておこう。」と言って契約書(<証拠>)を示した。被告菅川は、第一店舗の転貸借契約を原告が賃貸人である栄地下センターに対してとりつくろうためには、かかる書類を作成しておく必要があるとの新美の説明に納得し、右契約書に署名押印することにした。その際、被告菅川は、同人の前夫である菅川龍夫が被告菅川の名義で多額の借金をしていたことを懸念し、姉の瀬川を書面上の契約当事者とし、自分は契約書の連帯保証人欄に署名押印した。

更に、新美は、被告菅川に対し、売上金の八五パーセントについてはいつでも戻すから、栄地下センターの手前、一旦は毎日の売上金全額を原告指定の銀行口座(夜間金庫)に入金するよう申し入れ、被告菅川はこれを承諾した。

(四) その後、「天むす」の売上が順調に伸びたこと等から、新美は、被告菅川に対し、「東京でもやってみないか。いい物件を探してきたら。」と勧めたので、被告菅川は、第二店舗を探してきた。

そこで、原告は、三浦から第二店舗を賃借し、被告菅川の指示通りに原告の費用負担で第二店舗を改装し、昭和六一年三月頃、これを第一店舗と同様の条件で被告菅川に転貸した。

(五) 新美は、被告菅川に対し、昭和六一年、「個人経営では税金ばかり高くとられるので、会社を作ってはどうか。」と会社の設立を勧め、被告菅川の了承を得て、出資金五〇〇万円の被告会社(当初の商号は有限会社地雷也)を設立した。その際、新美は、本来被告菅川が全額出資して設立すべき被告会社に新美が半分出資した形で被告会社を設立した。

2  請求原因6(背信行為を理由とする解除)について

以下に述べるように、被告会社に原告が主張するような背信行為はない。

(一) 被告会社が原告事務室から退去したことが背信行為であるかという点について

原告は、「天むす」の製造販売等にまったく関与しておらず、原告代表者新美は、被告らに対し、注意すべき立場になく、従って、被告らが新美から被告会社の業務内容について注意を受けたことはない。被告会社が原告事務室から退去する際には、事前に原告の従業員にその旨通知して円満に退去しているものである。そもそも被告会社が原告事務室から退去したのは、被告会社が原告に対し、融資を申し入れたところ、原告がこれを拒否した上、被告菅川の経済的困窮に乗じて被告会社の乗っ取りを企図し、増資の申し入れをなしたことにその端緒があるのであって、被告らが原告のこのような不当な経営干渉を拒んだことは、何等の背信性も帯びるものではない。また、原告と被告会社との営業はそれぞれ独立性を有しているのであるから、被告会社が原告事務室から退去することは本来自由なはずである。

(二) 瀬川及び被告菅川が第二店舗の賃貸借関係書類を原告事務室から持ち出したことが背信行為であるかという点について

瀬川及び被告菅川が持ち出した書類は、その月分の請求書及び領収書のみであり、しかも、原告の従業員岡村厚子(以下「岡村」という。)が、瀬川に対し、「今度からそちらで払って下さい。」と言って渡したものであり、無断で持ち出したものではない。

(三) 被告会社が転貸借契約を主張することが背信行為であるかという点について

前述したように本件各店舗の使用にかかる契約は転貸借契約であるから、被告会社が転貸借契約を主張することは、何ら背信行為にあたらない。

(四) 被告会社の本店所在地の変更が背信行為であるかという点について

被告会社が新美に無断で被告会社の本店所在地を変更したことは事実であり、被告菅川に自らの経営する被告会社の本店所在地をどこに決めるかは自分の自由であるとの認識しかなく、有限会社法所定の手続をとらなければ違法であるとの認識が欠如していたことは被告会社の内部関係に関する限り問題があるといわなければならないが、原告・被告会社間の転貸借関係とは全く関係のない出来事である。

(五) 被告会社が原告に対し、売上金の一五パーセントのみを入金することが背信行為であるかという点について

原告と被告会社との間においては、第一店舗における開店以来、被告会社が売上金額を原告指定の銀行口座に入金し、その後すみやかに原告が被告会社に対し、右売上金の八五パーセントから賃料等を控除した残金員を返却してきた。ところが、原告は、昭和六二年一〇月上旬、被告会社に対し、同年八月分の売上金の八五パーセントから賃料等を控除した残金員の返却をせず、被告会社の支払催告に対しても応じようとしなかった。右のような原告の措置は、被告会社の資金源を絶って、被告会社を倒産に追い込もうとするものであって、被告会社は自衛上やむをえず売上金全額を原告指定の銀行口座に入金することを停止した。従って、被告会社には売上金全額の入金を停止するにつき正当な理由がある。なお、原告は、本件各店舗の賃料、共益費、水道光熱費の他に売上金の一五パーセントを取得してきたことにより、昭和六二年一二月までには本件各店舗の改装費用を全て回収してしまったので、もはや、賃料、共益費、水道光熱費プラス売上金の一五パーセントという本件各店舗の転貸借賃料は、不当に高くなったというべきである。

被告会社は、昭和六三年三月二三日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、本件各店舗の転貸借賃料につき、各売上金の五パーセントプラス本件各店舗の賃料、共益費、水道光熱費に減額するよう賃料減額請求の意思表示をした。

3  請求原因7(売上金不払いを理由とする解除)について

被告会社は、原告に対し、本件各店舗の売上金の一五パーセントを原告指定の銀行口座に振り込んで支払ってきたのであるが、原告は、被告会社に対し、昭和六三年二月一二日付内容証明郵便(<証拠>)により「販売委託契約を解除した以上、売上金の一五パーセントの入金を受け取る意思はない。」と右金員の受領を拒絶した。従って、被告会社は、原告に対し本件各店舗の賃料について口頭の提供をしなくても右賃料の支払につき履行遅滞には陥らず、債務不履行の責を負うことはない。

第三証拠<略>

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、本件各店舗における「天むす」の販売に関する原告・被告会社間の契約関係について検討する。

請求原因5の事実のうち、被告会社が昭和六二年一〇月上旬までに限り、原告に対し、毎日売上日報及びレジペーパー等売上関係書類を添付して全売上金を原告指定の銀行口座に入金し、その後売上金の八五パーセントから賃料・共益費等相当額を控除した金員を原告から受領してきたこと、昭和六二年七月二八日まで被告会社の代表取締役瀬川が原告事務室に事務机を置き、被告会社の事務を統括していたこと、被告菅川が本件各店舗において天むすびの仕入・販売の実務を行っていたことについては、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、<証拠略>並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  被告菅川は、昭和五九年一〇月頃、「天むす」の評判を聞き、その製造方法に改良を加えて販売したいと考えていたが、当時クラブ経営の失敗による多額の借財を抱えていたことから、友人である岡村を通じて面識を得た原告代表者である新美に相談を持ち掛けた。新美は、同人所有の不動産の賃貸と飲食店経営を営業目的とする株式会社(従業員約一一名)である原告を経営する者であるが、「天むす」に興味を示し、当時原告が第一店舗において経営していた和食店「竜むら」の営業成績が不振であったところから、被告菅川に対し、「竜むら」に代わって第一店舗を使用して「天むす」の販売をするように勧めた。

そこで、昭和六〇年三月二五日、原告と被告菅川の実姉である瀬川との間において、原告から原告の店舗内における物品の販売等を瀬川に委託する旨の本件委託契約が締結された。なお、右契約締結の際、多額の借財を抱えていた被告菅川は、受託者とはならず、右契約に基づく契約者の債務を受託者と連帯して保証するにとどまった。そして、同月二七日、被告菅川は、第一店舗において、「地雷也」の屋号を用いて「天むす」の製造販売を開始した。

2  その後、第一店舗における「天むす」の販売業績が順調に伸びて行ったことから、被告菅川は東京に進出したいとの希望を持ち、その旨原告代表者新美に伝えたところ、新美も賛同した。そこで、被告菅川は、昭和六〇年頃、「天むす」の製造販売業務の立地として適当な物件を探すべく上京し、第二店舗の所有者である三浦と交渉した結果、同年一一月一三日、原告と三浦との間において第二店舗の賃貸借契約が締結され、被告菅川は、翌年三月、第二店舗においても「天むす」の製造販売を開始した。

3  第二店舗における営業が開始された昭和六一年三月、本件委託契約の特約(委託業務が過大に発展すると判断したときは委託者・受託者折半による会社法人を設立し委託業務を継続発展努力する。)に従い、新美と瀬川が五〇パーセントずつ出資して被告会社(当初の商号は有限会社地雷也)を設立し、被告会社は、本件委託契約の受託者の地位を承継し、その後は被告会社により本件各店舗における「天むす」の製造販売業務が行われ、現在に至っている。

4  ところで、本件委託契約における委託者である原告と被告会社(被告会社設立前は瀬川)との関係は、概ね次のとおりであった。

(一)  原告において保証金や敷金を負担して、本件各店舗を他から賃借し、原告の負担において内装工事を施し、冷暖房設備、給排水設備、厨房用品、机、椅子、電話等の主要な什器備品を購入した。一方、被告菅川は、右内装工事に際して、内装の設計をして工事業者に指示を与え、また、瀬川の負担において食器棚等の備品を購入した。

(二)  被告会社は、自己の責任で従業員を雇用し、これを指揮・監督して「天むす」の製造販売業務に従事させ、商品の材料の仕入れも独自に行い、広告宣伝費、従業員の賃金、事務用品及び公租公課も自らの計算において支払っており、「天むす」等の商品についての被告会社固有の製造技術も保有している。

(三)  本件委託契約によれば、委託者は、全ての売上代金を委託者の売上代金として管理し、受託者に対し、報酬費用及び品代金として売上代金の八五パーセントを支払うが、その決済は委託者の支払い規定によること(契約第五条)、受託者は、委託者に対し、本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額を協力金として支払うこと(契約第六条)が約定されており、被告会社は、右約定に従い、毎日の売上金を原告の銀行口座に振り込むとともに、売上日報及びレジペーパー等の売上関係資料を原告に持参し、原告は、毎月二五日締め翌々月一五日支払を原則として売上金の八五パーセントから本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額を控除した残額を委託料として被告会社に支払っていた。

以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、本件各店舗における「天むす」等の製造販売業務については特に原告から指示を受けることもなく被告会社が独自の計算において行ってきたものであり、原告は、被告会社から一旦売上金全額の入金を受けたうえで、売上金の一五パーセント及び協力金の名目で本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額を控除した残額を被告会社に支払う方式により、売上金の一五パーセント及び協力金の名目で本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額を取得するが、その主な負担としては、本件各店舗を賃借するにあたって保証金や敷金を負担したこと、本件各店舗における営業開始に際して内装工事費及び主要な什器備品の購入費用を支出したこと及びその賃借する本件各店舗を「天むす」等の製造販売業務のために被告会社に使用させること(但し、原告が本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額を被告会社から徴収していること右認定のとおりであり、本件各店舗の賃料等の支払は実質的には被告会社の負担においてなされてきたといえる。)にすぎず、これらの点に鑑みると、原告・被告会社間の契約は、物品販売業務委託契約との名目でなされているけれどもその実質は、本件各店舗及びこれに付属する什器備品を被告会社が「天むす」等の製造販売業務のために使用収益し、原告がその対価的性質を有する金員を取得することを中心的な内容とするものであり、その主たる目的は本件各店舗の賃貸借にあると解するのが相当である。

三  背信行為を理由とする解除の効力(請求原因6)について

1  原告が被告会社に対し、本件訴状をもって被告会社の背信行為を理由として本件委託契約を解除する旨の意思表示をなし、昭和六三年一月一四日これが被告会社に到達したことは、当裁判所に顕著である。

2  そこで、右解除の意思表示について解除原因の有無を判断する。

(一)  請求原因6(一)の事実のうち、瀬川と被告菅川が昭和六二年七月二九日原告事務室から退去したことは当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、前記二において認定した事実、<証拠略>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  被告会社は、設立当初から本店所在地を原告の本店所在地と同一の場所に置き、被告会社代表取締役瀬川は、原告事務室において被告会社の経理事務に従事していた。

(2)  被告会社は、本件委託契約第五条の約定に従い、本件各店舗における毎日の売上金全額を原告の銀行口座に振り込むとともに、売上日報及びレジペーパー等の売上関係資料を原告に持参し、原告は右資料に基づいて精算し、右売上金の八五パーセントから本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額を控除した残額を委託料名目で被告会社に支払っていた。

右委託料の支払時期については、一応、毎月二五日締め翌々月一五日支払を原則とする旨、原告・被告会社間で取決められていたが、実際には、被告会社の運営上の都合から、原告が精算に基づかずに部分的に前払いをすることが多かった。

(3)  ところで、「天むす」の販売業績は順調に伸び、被告会社は、本件各店舗における営業の他に、被告会社直営の「天むす」製造工場を設置し、右工場において製造した「天むす」を東京の百貨店に直接販売する等業務の拡大を図って行った。原告も被告会社の業務の拡大を積極的に支援し、被告会社に対し、昭和六二年六月、三〇〇〇万円の融資を行ったりした。また、株式会社三越の子会社である株式会社二光他複数の企業が被告会社に対し、フランチャイズ方式による「天むす」の販売を申し込んできたが、その際、原告の代表者でありかつ被告会社の取締役でもある新美が原告本社の社長室において相手方と交渉し、フランチャイズ契約の成立に関与した。

このように、被告会社の業績は短期間に飛躍的に伸びていったが、一方、昭和六一年七月頃から、被告会社から原告に対し売上伝票は送付されているのにこれに対応する現金入金が抜けていたり、被告会社の経理上使途不明金がしばしば見られるようになったことから、原告代表者新美は被告会社の経理について不信の念を抱くようになり、瀬川や被告菅川に対し、再三注意を促すことがあった。また、被告会社は、昭和六二年六月頃、右三〇〇〇万円の他にも原告に対し、事業資金の融資を申し込んだところ、新美は担保として被告会社が取得するフランチャイズ料の一部を原告に支払うか或いは被告会社の増資をして原告或いは新美が出資することを融資の条件として提示し、被告会社代表取締役瀬川と被告菅川が右申出を拒絶したこと等から右両名と新美の関係は急速に悪化した。

(4)  右のような経緯を経て、被告会社代表取締役瀬川と被告菅川は、昭和六二年七月二九日、突然、原告代表者新美に何の挨拶もなく、長年執務していた原告事務室から退去し、その際、原告専用の書類保管庫から原告賃借にかかる第二店舗の賃料・水道光熱費の請求書類、同振込書類等賃貸借関係書類、本件各店舗の売上日報・レジペーパー・伝票綴等を持ち去った。その後、原告は、被告会社に対し、右書類の返還を求めたが、被告会社はこれを拒絶した。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する<証拠略>は措信しえず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  請求原因6(三)の事実のうち、被告会社が被告会社の本店所在地を名古屋市瑞穂区松月町四丁目一三番地の三に変更し、その後第一店舗の所在地に変更したことは当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、<証拠略>を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  本件委託契約締結に際し、原告と瀬川との間において、「業務が過大に発展すると判断したときは原告、瀬川折半による会社法人を設立する」旨の特約がなされたところ、その後、「天むす」の販売業績は順調に伸びたため、第二店舗における営業開始の直前である昭和六一年三月二五日、右特約に従って被告会社が設立された。被告会社設立の資本については、新美と瀬川両名の名義で額面五〇〇万円の原告振出の小切手を住友銀行栄町支店に振り込み、形式上、新美と瀬川がそれぞれ五〇パーセント出資したことにした。そして、被告会社の代表取締役には瀬川が就任し、新美も被告会社の取締役となった。

(2)  被告会社は、被告会社代表者瀬川と被告菅川が原告事務室から退去した直後、それまで原告の本店所在地と同一であった被告会社の本店所在地を被告菅川の住所地である名古屋市瑞穂区松月町四丁目一三番地の三に変更し、更に、第一店舗の所在地に変更したが、右各変更に際しては被告会社の五〇パーセント出資者でありかつ取締役である新美に何らの相談もなく、定款変更のための社員総会も開催されなかった。

(三)  請求原因6(四)の事実のうち、被告会社が原告に対し、第一店舗については昭和六二年一〇月七日以降、第二店舗については同月九日以降、それまで継続していた各売上金全額の入金を停止して、各売上金の一部のみを入金するようになったことは当事者間に争いがない。

右当事者間に争いのない事実、<証拠略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  前記三2(一)(2) において認定したとおり、被告会社は、従来原告に対し、本件委託契約第五条の約定に従い、本件各店舗における毎日の売上金全額を原告の銀行口座に振り込むとともに、売上日報及びレジペーパー等の売上関係資料を原告に持参していたが、第一店舗については昭和六二年一〇月七日以降、第二店舗については同月九日以降、それまで継続していた各売上金全額の入金及び売上日報及びレジペーパー等の売上関係資料の持参を停止した。そして、被告会社は、原告に対し、本件各店舗の売上金の一五パーセントとする金員のみを入金するようになったが、売上金の一五パーセントであることを裏付ける資料は何ら示さなくなった。

(2)  前記(一)において認定したとおり、被告会社は、従来原告に対し、本件委託契約第六条の約定に従い、協力金の名目で本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額を支払っていたが、売上金全額の入金の停止と同時に本件各店舗の賃料・共益費・水道光熱費相当額の支払をも拒絶するに至った。

(四)  <証拠略>によれば、原告は、第二店舗の賃貸人である三浦から、昭和六二年一二月一一日付内容証明郵便により、被告会社による第二店舗の使用状況について、「天むす」製造に際して生じる油の臭気が第二店舗のある建物の内に充満して他の賃借人が迷惑を被っていること、右臭気に加え、午前四時半頃から第二店舗のシャッターを開けて材料の仕込み等により騒音を発するため、同一建物内に居住している三浦が迷惑を被っていること、事務所として使用する取決めになっている部分に従業員を宿泊させていること等の点につき強く改善を求められたため、被告会社に対し、右の点について善処するように申し入れたが、被告会社から何の対応も得られなかったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(五)  ところで、前記二において認定したように、原告・被告会社間の本件委託契約の主たる目的は本件各店舗の賃貸借であるが、賃貸借は、当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、賃貸借の継続中に、当事者の一方に、その信頼関係を裏切って、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあった場合には、相手方は、催告なしに賃貸借契約を解除することができると解すべきであるが、これを本件について見るに、右に認定した被告会社の一連の行為は、原告・被告会社間の賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめる不信行為に該当するものといわざるを得ない。

なお、被告らは、被告会社が新美に無断で被告会社の本店所在地を移転したことは、被告会社内部の問題であって、原告・被告会社間の賃貸借関係とは全く関係のない出来事である旨主張する。

しかし、前記認定のとおり被告会社は、本件委託契約に付随する特約に従って設立されたものであり、原告代表者である新美が被告会社の五〇パーセントの出資者兼取締役であることから、被告会社が新美に無断で被告会社の本店所在地を移転した行為が、原告代表者新美の被告会社に対する不信感を増長させる結果になったことを否定することはできない。

また、被告らは、原告が昭和六二年一〇月上旬、被告会社に対し、同年八月分の売上金の八五パーセントから賃料等を控除した残金の返却をしなかったので、自衛上やむをえず売上金全額を原告指定の銀行口座に入金することを停止したものであり、被告会社には売上金全額の入金を停止するにつき正当な理由がある旨主張する。

しかし、前記三2(二)(1) において認定したとおり原告から被告会社に対する支払時期については、毎月二五日締め翌々月一五日支払を原則とする旨取決められていたところ、被告会社の原告に対する売上金全額の入金は、昭和六二年一〇月一五日より前から停止されたのであるから、被告らの右主張は理由がない。

以上から、本件各店舗の賃貸借を主たる目的とする本件委託契約は昭和六三年一月一四日原告の解除により終了したものといわなければならない。

四  損害(請求原因8)について

1  本件委託契約の解除後も被告会社が本件各店舗を占有することによって原告が被る損害は、本件委託契約が実質的には本件各店舗の売上額の一五パーセントと協力金相当額を賃料とする本件各店舗の賃貸借契約と解すべきところから、第一店舗については、第一店舗における売上額の一五パーセントと協力金(原告が栄地下センターに支払うべき賃料・共益費、第一店舗の水道光熱費)相当額、第二店舗については、第二店舗における売上額の一五パーセントと協力金(原告が三浦に支払うべき賃料・共益費、第二店舗の水道光熱費)相当額と解すべきである。

2  第一店舗についての損害

(一)  原告は、解除後の昭和六三年一〇月二六日以降の損害の支払を求めているところ、同日以降の第一店舗における一か月間の売上額の一五パーセントについては、<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、昭和六三年二月二六日分から平成元年七月一四日分までの第一店舗における売上額の一五パーセントとして合計三六九九万六五七一円を中京相互銀行栄町支店の被告会社名義の預金口座に積立預金していることが認められ、右積立額の平均月額二二四万二二一六円(三六九九万六五七一円÷一六・五月=二二四万二二一六円 円未満切捨)を下らないものと推認することができる。

(二)  <証拠略>によれば、原告が栄地下センターに支払うべき賃料及び共益費は、月額七七万三六〇〇円であることが認められる。

(三)  昭和六三年一〇月二六日以降の第一店舗における一か月間の水道光熱費の額については、<証拠略>によれば、別紙計算書1記載のとおり昭和六三年三月分から同年一一月分の第一店舗における水道光熱費の平均が二二万八五〇三円であることが認められ、これを下らないものと推認することができる。

(四)  以上から、第一店舗についての昭和六三年一〇月二六日以降の損害額は、三二四万円(千円未満切捨)を下らないと推認することができる。

二二四万二二一六円+七七万三六〇〇+二二万八五〇三円=三二四万四三一九円

3  第二店舗についての損害

(一)  昭和六三年一〇月二六日以降の第二店舗における一か月間の売上額の一五パーセントについては、<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、昭和六三年三月八日分から平成元年七月一四日分までの第二店舗における売上額の一五パーセントとして合計一二九四万三八〇六円を第一相互銀行銀座支店の被告会社名義の預金口座に積立預金していることが認められ、右積立額の平均月額七八万四四七三円(一二九四万三八〇六円÷一六・五月=七八万四四七三円 円未満切捨)を下らないものと推認することができる。

(二)  <証拠略>によれば、原告が三浦に支払うべき賃料及び共益費は、月額六四万七四八〇円であることが認められる。

(三)  昭和六三年一〇月二六日以降第二店舗における一か月間の水道光熱費の額については、<証拠略>によれば、別紙計算書2記載のとおり昭和六三年三月分から同年一一月分の第二店舗における水道光熱費の平均が三三万二五八六円であることが認められ、これを下らないものと推認することができる。

(四)  以上から、第二店舗についての昭和六三年一〇月二六日以降の損害額は、一七六万円(千円未満切捨)を下らないと推認することができる。

七八万四四七三円+六四万七四八〇円+三三万二五八六円=一七六万四五三九円

なお、原告は、売上額の一五パーセントについては昭和六二年二月二五日から昭和六三年二月二五日までの売上額の平均月額を基礎に算定すべきであり、本件各店舗についての昭和六三年一〇月二六日以降の損害は、合計七〇〇万円を下らない旨主張するが、昭和六三年一〇月二六日以降においても右に認定した額を超える売上があったことを認めるに足りる証拠はなく、原告の右主張は採用しえない。

五  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告会社に対し本件各店舗の明渡しを求め、被告らに対し連帯して昭和六三年一〇月二六日から第一店舗明渡し済みまで一か月三二四万円の割合による遅延損害金及び昭和六三年一〇月二六日から第二店舗明渡し済みまで一か月一七六万円の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 深見玲子)

別紙<省略>

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